卒業生寄稿『カイシャ人の憂鬱』第一回

昨年度卒業生の、あさいし・こう(仮名) さんから会社員生活、大学生活に関するエッセイ『カイシャ人の憂鬱』をご寄稿いただきました。若干長いので4回に分けて掲載いたします。(毎週金曜日にアップします。)

なお、あさいしさんは、長文・力作の卒業論文を書いて卒業しました。そちらも読みたい方はぜひオープンキャンパスに、井口ゼミの卒業論文集を読みに来てください。。

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第一回 西へ

去る9月の半ば、
私は夏期休暇を取って、関西へと戻っていた。
実家は、愛知県にあるのだから別に現在は何の拠点もない関西へ戻るという表現はおかしいかもしれないが、
大学時代、たった4年間だけを過ごした奈良と関西は、それでも私にとっては、「戻る」場所である。

盆でもシルバーウィーク前後でも何でもないただの平日に、たった二日しかない貴重な夏期休暇をわざわざ消化することを、
カイシャの人に不審がられたとき、

「ゼミの合宿があって」

「え、大学生なの?」

「そうなんですよー、実はぶっちゃけまだ卒業できてなくってー1年留年してるんすよね。でも卒論のために合宿は参加しないとー卒論のテーマ教えて欲しいですか?ブラック企業です。これは潜入調査です」

と、かなり適当ぶっこいてこれはむろん嘘であるが、大学時代所属していたゼミの合宿があったのだけは本当である。(因みに私がブラック企業勤めなのも本当である)
奈良女子大学だけではなく、その前の年からの引き続きで、山口大学の人たちも参加する合同ゼミ合宿で、
その飲み会には、OBとして、我々奈良女子大卒業生3名のほか、山口大の方の卒業生で、現在は他大学の大学院に通う院生も参加していた。

「すごく院生っぽくなった」

という周りの評通り、
文献やセンセイの名前を次々に出し、現在の研究や院の生活を語る彼の姿を見て、自分の好きな研究に没頭でき、学問についてあれやこれやと議論できる環境って、いいなあと、
時間がないので本をゆっくり読む時間もなく、したがって、調べ物をしようにも、ちょろっとGoogleのみで済ませるというカイシャ人生活を送る自分は、「大学院生」という環境と肩書きを、内心羨ましく思いつつ、
で、あるならば、

“しかし自分は果たして、「カイシャ人」っぽくなっただろうか?”

と、日付が変わったあとも続いた飲み会の帰り、
タクシーに一台乗車拒否をされつつようやく辿りついた神戸のホテルにて、
私はそんなことを考えていた。

第二話に続く)